耳たぶの裏側に隠れてしまう小型の耳かけ式補聴器で、こんな便利な装置回路が組み込めた背景には、IC製造の超微細加工技術がありました。
3つのIC、3つのトランジスタと一つのダイオードでできているこの補聴器を真空管に置き換えると、昭和30年代初めの14型テレビ大になるといいます。
科学技術の進歩が難聴者に大きな"福音"をもたらしたわけです。
補聴器の国内市場は、20年前ですでに30万個、150億円。
老齢化社会の進展に伴い需要は毎年10%前後伸びています。
この自動騒音抑制式は価格も8万円前後と手ごろなことから好評を博し、たちまち市場の10%を占めてしまいました。
59年9月からは人目にほとんどつかない耳穴の中におさまる超小型タイプの「リオネットHB-34AS」(8万5千円)の開発に成功、市販されています。
補聴器は、難聴者の聞き取りにくい音の領域を中心に増幅するように設計されていますが、低い音も同時に大きくしてしまいます。
低い音は健康な人と同様に聞こえる耳にとって周囲で低い音の発生源があると、高い領域の音で占められる会話の声はほとんど聞き取れなくなってしまうのです。
これが従来のタイプの補聴器の弱点でした。
いろんな楽器を集めて、ピッコロの高い音からコントラ・ファゴットのうんと低い音まで出して演奏するオーケストラの音の領域は、29ヘルツから4186ヘルツまで実に幅が広いのです。
また、人間の会話音声の領域は500~2000ヘルツといわれ、一般には1000~2000ヘルツに集中しています。
ところが耳にうるさい騒音の音域はほとんど1000ヘルツ以下。
騒音抑制タイプの補聴器は、この騒音と会話音声の領域差を巧みに利用したものです。
騒音は1000ヘルツ以下の低音領域で、一定の音量以上で継続的に流れてきます。
そこで、この新しい補聴器にはマイクで集めたいろんな音を音域ごとに検出する装置が組み込まれました。
1000ヘルツ以下の音でかつ強さが60デシベル(約60ホン)以上、そのうえ100分の1秒以上継続する音がこの検出装置でふり分けられ、次のフィルター機構でこの騒音部分だけがカットされ、会話に必要な音だけが増幅されます。
補聴器で聞く音の世界はどんななのでしょう。
確かに小声の会話はよく聞こえます。
しかし、それと同時に、せきの声、コーヒーカップの「ガチャガチャ」する音、書類を繰る「ザワー、ザワー」の音、そして何よりも耳障りなエアコンの低い「シャー、シャー、シャー」という騒音が一緒に拡大されて耳の中で鳴り響きます。
驚くような騒音の世界なのです。
この騒音に耐えかねて補聴器嫌いになるお年寄りも少なくないです。
必要な会話の音のみ拡大し、不必要な騒音はカットできないものでしょうか。
こんな難聴者の夢をかなえたのが、昭和57年に開発された自動騒音抑制式補聴器「リオネットHB-69AS」です。
健康な人の耳には名曲と響くバイオリンの「チゴイネルワイゼン」も難聴者にとっては"間"の抜けたただの曲に聞こえます。
一般に難聴といわれる人の耳は高い音が聞き取りにくくなっており、バイオリンでいうと一番高い音を出す弦、高いミ(E)以上の音はほとんど聞こえないのです。
ですから、メロディーが途切れ途切れに聞こえてくるのです。